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未来形ESD ー アシュレイ校の挑戦 ー

英国サリー州に「ハーモニー」という標語のもとに、持続可能な未来につながる教育実践で注目されているアシュレイ小学校(Ashley Primary School)があります。

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傍から校舎を見ると、イギリスの普通の公立学校ですが、この内で起こっていることは革命的とも言える教育です。実際に「持続可能性(サスティナビリティ)革命」と呼ばれていて、カリキュラムのみならずエネルギーや食など、学校生活のあらゆる側面において持続可能性が見出せる「ESD(持続可能な開発のための教育)実践校」です。

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校長先生は、リチャード・デューンさん。

全校生徒にコンパスを提供し、三度の飯よりもコンパスの好きな校長さんです。(なぜコンパスか、は後述)

「革命」が始まって間もなく、学校はみるみるうちに変容しました。その変容ぶりは、よく言われる学校改善や授業改善とは対極とも言える「変容」なのかもしれません。一時の学力向上とかではなく、先生も生徒もハッピーになり、生涯、自ら学びを楽しんでいけるような基盤づくりが行われるようになったのです。

2016年2月には、チャールズ皇太子が同校を訪れ、皇太子ご自身が提唱する「ハーモニー原則」が唯一、現実のものとされている学校であると賞讃されるまでになりました。

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(写真提供:Ashley Primary School)

2015年には環境問題に取り組む優良実践校として英国で「エコ・スクール代表校」に選出され、2016年度には英国を代表して「ユネスコ・日本ESD賞」の審査対象校に選ばれています。

同校で15年間、校長先生を務めるリチャード校長がユネスコ・アジア文化センターの招へいでこの11月に来日し、同月20日には日本国際理解教育学会及び聖心女子大学大学院の共催で参加型セミナーが開かれました。

当日は、まさにリチャード校長が唱える「サスティナビリティ革命」が起きたと言えます。多くの参加者に深い次元で変容をもたらしたような時間でした。セミナーが終了した翌朝、参加した方々から「いろいろ揺さぶられ、たくさん刺激をもらいました」や「公立校の制度は日英で異なるけれど、知恵と勇気をもらった」「公立でももっとやれることがある」「沈黙の時間など、直ぐにでも実践したい」「自分の深いところに届いたメッセージだった」等々、という丁寧な感想メールをいただきました。

その一端ではありますが、ここに当日のセミナーの概要をお伝えします。セミナーのタイトルは「持続可能性を学びの真ん中に置こう(Putting Sustainability at the Heart of Learning)」です。

1. Introduction – Minute of Silence 沈黙の時間
アシュレイ校は特定の宗教を教えてはいないのですが、子ども達の精神性や心の安定をとても大切にしています。そうした姿勢の現れが、授業の前の「沈黙の時」です。子ども達は、ほんの数分の「沈黙の時」を経ることで休み時間の慌ただしさから集中が求められる学習の時間へと移っていきます。実際に、今回のセミナーでも体験してみました。

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* 以下、セミナー当日に使用されたパワーポイントの一部をリチャード校長の了解のもとに借用し、レクチャーの概要をかい摘んでお伝えします。

2. Richard’s Journey So Far リチャード先生のこれまでの「旅」
リチャード校長の教育観というか、人生を変えたのは2度にわたる南極旅行でした。南極に行き、ペンギンなどの生態系の変化や溶けていく氷山を目の当たりにして、自分の足下、つまり学校から変えていこうという決意に至ったのです。以来、エネルギーや食の大切さを教室内で教えるのみならず、学校の在り方そのものを持続可能にしていく方向に舵を切っていきます。

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3. The State of the World 危機に瀕する世界の現状
私たちの世界は徐々に危機に瀕しています。温暖化や生物多様性の喪失など、経済成長の成れの果てに地球は徐々に蝕まれているような状態にあるのです。気候変動はその最たる現れである、とリチャード校長は捉えています。

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4. A Values Culture 価値の文化
そんな中、教育でもっとも大切なのは、持続可能な未来へとつながる価値観を養うこと。アシュレイ校では「自由」や「希望」「公正さ」「簡素」「信頼」「責任」など、沢山の価値観を大切にしています。ところが、これらの教え方は伝統的な道徳教育とは全く異なる方法によります。つまり、7つのハーモニー原則をカリキュラム全体に織り込む(染み込ませる)ことによって子ども達の道徳(倫理)観を育んでいるのです。

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5. Nature’s Principles of Harmony 自然界のハーモニーの原則
アシュレイ校の子ども達は以下に述べる「7つの原則」をじっくりと学んでいきます。ここで強調されるべきは、持続可能な未来にとって大事な諸原則はいずれも自然界に見出せるということです。これから示す7原則は自然界や宇宙の摂理であるとも言えるでしょう。

6. The Principle of the Cycle 循環の原則
世の中は循環(サイクル・サークル)に満ちています。食や水、季節、我々の血液はどれも巡り巡っていますし、チョウもカエルもサケも、皆、循環の中で生きています。

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教育で大切なのは、こうした循環を教室で知識体系として覚えることというよりも、学校生活全体の中で生徒たちに五感で感じ取らせることだと、リチャード校長は言います。したがって、アシュレイ校では、食の循環、つまり、子ども達は校内の有機野菜畑で採れたものを食べ、残った食べ物は堆肥にし、再び野菜を育てています。

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7. The Principle of Interdependence 相互依存の原則
アシュレイ校で相互依存を学ぶ一例は養蜂の実践です。ハチについて、ハチと共に、子ども達はハチと植物(受粉)、ハチ同士、ハチと人間が共存していることを学んでいます。

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実際に、子どもは特別な服を身につけ、実際に蜂の巣を作る手伝いをし、蜂蜜を採取します。

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8. The Principle of Geometry 幾何学の原則
アシュレイ校ではコンパスを生徒全員に提供し、幾何学に親しませます。

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私たちの内と外に、壮大な天体から微生物に至るまで幾何学のパターンが見出せます。こうした「不思議」と出会う子ども達の想像力は尽きず、小さな水滴に地球を見、台風の渦と巻貝の形を重ね、天体の軌道と花の形状に相似性を見出します。

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実際に生徒たちにコンパスで2つの円から6つの円を描かせ、その中に見出せるパターン(模様)を自然界で見られるパターンと重ねていきます。一例ですが、二つの円が重なると魚の形が現れます。これはベシカ・パイシスと呼ばれる生命が生まれる形として知られ、自然界にも容易に見出すことができます。

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また、6つの円の真ん中に1つの円を置けば、6角形ができますが、これは花びらが作る形状と重なります。アシュレイ校の生徒たちは、コンパスを用いて創る形状と自然界のパターンとを重ね合わせ、センス・オブ・ワンダーを獲得していくのです。

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9. The Principle of Diversity 多様性の原則
アシュレイ校では、種から野菜、花に至るまで校内で育てるものの多くは多様な種から成ります。つまり、世の中は多様であることが自然であり、その方がしなやかで強いということを学びます。

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10. The Principle of Adaptation 適応の原則
現在の教育の問題点は、教科書に代表される標準(スタンダード)を重んじるがゆえに、子ども達の実際の生活から掛け離れたことをしばしば教えてしまうことです。アシュレイ校では、これを回避するべく、地域のホンモノと子ども達を積極的に出会わせます。例えば、有機農法の専門家や伝統的な技能をもった職員などに直接、子ども達と接してもらうのです。

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11. The Principle of Health 健康の原則
アシュレイの子ども達は皆、健康的で、元気一杯です。ランチには校内菜園で採れたての野菜を食べ、手づくりの料理で元気になります。子ども達に「健康な状態」とは? と尋ねると、「よき食べ物」や「奇麗な水」「適度な運動」「奇麗な空気」などのような身体に係わる答えだけでなく、「自分が価値づけられているとき」や「新しいことを学んでいるとき」「信じているもののために立ち上がっているとき」「他の人をケアしているとき」「何かを創造・想像しているとき」「自然とつながっているとき」など、心や精神に係わる答えもあげられます。これらは、実際にアシュレイ校で子ども達が実感しているから生まれる回答であると言えましょう。

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12. The Principle of Oneness ひとつながりの原則
最後に、以上の原則をひとつらなりにする原則、つまり「ひとつながりの原則」があります。これは、個人どうしが一体感をもって共生するのに不可欠な感覚です。ですから、このセミナーでも実際に体験したように「沈黙の時」を授業などのイベントの始めと終わりに行います。

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13. Sustainability and Leadership 持続可能性とリーダーシップ
アシュレイ校では、これらの原則を学びながら、全ての子どもがよきリーダーとして育まれていきます。そのリーダーシップの種類は実に多様です。

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例えば、
・エネルギーをモニターするリーダー
・残食を計量するリーダー
・水の利用に関するリーダー
・生物多様性プロジェクトのリーダー
・野菜等の生育・水やり・雑草抜きのリーダー
・校内リサイクルのリーダー
・遊びの時間とインクルージョン(包摂)に関するリーダー
・クリーンな旅行のためのリーダー

これらは日本だと「係」に相当しますが、いずれも地球規模課題が意識され、子ども達は地球の「守り手」「救い手」としての自覚をもっているところが決定的に違うのかもしれません。

14. Harmony Song – Belle Mama ハーモニー・ソング

「ひとつながり」をセミナー参加者みずから体験するように、ワークショップの最後に皆で、「偉大なる母」という歌を歌いました。

15. Conclusion – Minute of Silence 沈黙の時間

そして、最後はふたたび「沈黙の時間」を全員で共有します。

以上の内容を半日(4時間)でこなしたので、相当に濃い時間となりました。

さらなるアシュレイ校の実践や理論については、以下の同校のホームページ(英文)をご覧下さい:

アシュレイ校ホームページ(英文)

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